登山で必要なファーストエイドキットの中身について、またその選び方と使い方を紹介していきます。ここでは登山で起こりやすい負傷別でのファーストエイドの使い方とおすすめのファーストエイドを紹介します。
登山におけるファーストエイドキットとは
山奥・高所となると万が一の負傷時に救助要請してもすぐに助けが来るとは限らず、その場で数日間耐えなくてはならない場合があります。街よりも圧倒的に怪我をするリスクが高く、怪我の重症度も高い可能性の登山では、万が一に備えてファーストエイドキットを準備し、使い方を知っておきましょう。
登山では自分を助けることはもちろん、他の登山者が負傷しているときの手助けができるような心構えがあると望ましいです。その場での応急処置ができるファーストエイドキットとなるので、登山終了後は必要に応じて専門医に見てもらう必要があることも認識しておきましょう。
現役ガイドが持ち歩く必ず携帯すべきキット
登山用のファーストエイドキットは人によって中身が様々です。しかしながらこれだけは持っておきたいファーストエンドキットを現役ガイドさんの中身を見せてもらいリストアップしました。選び方も山行にしてください。
アイテム | 選び方 | 購入 |
---|---|---|
絆創膏 | 登山の傷は大きいことが大半なので大判タイプを加える | Amazon |
マルチツール | ビクトリノックスのクラシックが定番 | Amazon |
傷パワーパッド | 靴擦れにも使えるから大判タイプがおすすめ | Amazon |
テーピングテープ | テーピング以外に靴擦れ予防などにも使える | Amazon |
三角巾 | 止血、固定、被覆などマルチに使える | Amazon |
小さい穴を開けたペットボトルの蓋 | 傷口を洗うのに使える | 自分で作る |
プラティパス | 傷口を洗うのに使える | Amazon |
止血用の吸収パッド | ヘモスタパッドは切って使えて便利 | Amazon |
ステロイド剤軟膏 | 強いステロイド剤で虫刺され時に備える | Amazon |
衛生手袋 | 感染予防のために必須 | Amazon |
痛み止め | 絶対動かなくてはいけないときに使用 | Amazon |
夏になれば冷却パックを追加したり、危険な場所では捻挫や骨折箇所に添木として固定することができるサムスプリントの追加や、人によっては胃薬や花粉症の薬などを追加するというように自分でカスタマイズすることが重要です。必ず持ち歩くキットについては以下のことを重視しています。
- 大きな傷を想定した絆創膏やパッド
- 骨を折るなどのケガも簡単な固定が可能
- かさぶたを作らない湿潤治療
- 痛み止めはなるべく使用しない(痛みは危険信号なので痛みをとめて動くのは大変危険)
ファーストエイドキットの使い方
外傷を負った際のファーストエイドキットの使い方
登山で最も多いのが転倒などによる外傷です。「キズができたときには、消毒してガーゼ」というのが過去の直し方で、現在では「消毒をせず、傷を乾かさない」というのが常識です。痛くなりづらく、傷を綺麗に治すための治療法を覚えて、正しいファーストエイドキットの使い方をまずは覚えましょう。
ステップ1:傷口を洗う
怪我をした場合はまず初めに傷口の洗浄を行うことが重要です。泥汚れをそのままにしておくと傷口からバイ菌が入り重症化、また傷跡が残る可能性が高くなります。
登山では限られた水で傷を洗う必要があります。この際便利なのが小さい穴を開けたペットボトルの蓋とプラティパスのソフトボトルです。勢いよく水を当てることで傷の汚れを落とすことができます。汚れが落ちづらい場合は歯ブラシを使って落とすこともできます。
ステップ2:止血する
傷が深い場合は止血をする必要があります。ガーゼやハンカチなどでも良いのですかヘモスタパッドを直接傷口に当てて、手のひらで圧迫し止血するのがおすすめです。出血がひどい場合は傷口より心臓に近い動脈を強く圧迫する方法をとりますが、誤った方法で行うと壊死する可能性もあります。基本は圧迫止血と考えておきましょう。
ステップ3:傷口を保護する
登山では傷を負った後に行動をしなくてはいけません。その場で安静することができる街では、食品用のラップで傷を覆うだけで大丈夫です。ワセリンがあれば傷が傷みにくいので傷口に塗ると良いでしょう。ワセリン自体は皮膚に水分を与える力はなく、皮膚をコーティングすることで皮膚から水分が失われるのを防ぐために使われます。
登山時の負傷では水に強いケアリーヴがおすすめです。小さいサイズもありますが、登山の傷は大きいことが多いので大中小サイズを準備しましょう。
ステップ4:傷口を観察する
負傷の具合にもよりますが、動ける傷の場合は傷を追った状態で山中に滞在する場合もあります。汗をかいて皮膚に炎症を起こすことがあるので、暑い時期では1日に2回以上、寒い時期では1日に1回を目安に救急絆創膏を取り替えましょう。傷口は清潔に保つ必要があるので交換時は傷を水で洗うようにしましょう。
捻挫、骨折を負った際のファーストエイドキットの使い方
骨折と捻挫の違いと見分け方は骨折の方が痛みや腫れが大きいと言われますが、素人では見分けが難しいです。いづれも応急処置の方法は同じなので正しいステップで痛みが長引かないよう対応を施しましょう。
ステップ1:患部を冷やす
捻挫の主な症状は痛みと腫れです。骨折も初期症状は同様で、いずれも患部に炎症を引き起こします。この炎症をしっかりと冷やすことでその後の炎症進行がはっきりと変わってきます。非常に重要なステップです。
冷やし方は冷たい水があれば濡らしたタオルで冷やせますが、その場に冷たい水があることはほぼ皆無と考えるべきなので急性冷却パックがあると便利です。
ステップ2:圧迫と固定をする
患部が腫れてくる場合には損傷の程度が強い証拠です。腫れがひどくならないように患部を圧迫し固定します。
捻挫の場合は太めのテーピングで関節を固定します。骨折の場合は患部を固定するためにサムスプリントがあると便利です。灌木などを利用して添木を利用する方法もあります。
ステップ3:安楽な体位を保持する
捻挫の場合は患部の損傷を和らげるために松葉杖の代わりになるような灌木を探したり、骨折の場合は三角巾などで腕を吊るすなどして損傷をした場所が悪化しないように対処します。
ステップ4:現在地を確認し下山ルートをたどる
現在いる場所を確認しもっとも歩行が楽なルートを確認し下山を行います。無理な行動は禁物です。助けを呼ぶことも視野に入れて行動をしましょう。
動画で傷と捻挫の治し方を紹介
怪我の治り方を早める使い方とおすすめアイテムとして動画でも紹介しています。ステップ順で使い方の紹介もしているので是非チェックしてみてください。
虫刺され対策用のファーストエイドキットの使い方
登山中には様々な害虫がおり代表的なものでは蚊、ブヨ、アブ、サシバエ、ヤマビル、マダニなどが寄ってきます。アブやマダニは特に強くウイルス感染、アナフィラキシーショックの危険性があります。可能な限り危険を回避できるようにファーストエイドキットを正しく使用しましょう。
ステップ1:虫除け対策
虫が寄ってこないように虫除けスプレーを肌の露出部分はもちろん靴、ズボンの裾、足首周りに吹き付けておきましょう。また肌が露出しないように長袖、長ズボン、タオルを使用するのもおすすめです。日焼け止め対策にもなるので一石二鳥です。
虫除けスプレーはディート30%の虫除けがよく効きます。しかし直接肌につけることで経皮毒性の心配があるので、肌に使用するものはイカリジンや自作の安全な虫除けスプレーを使用することをおすすめします。イカリジンは対象となる虫の種類がディートと比較すると少なく蚊、ブヨ、アブ、マダニに限定されます。
ステップ2:毒を吸引する
ポイズンリムーバーはスズメバチ、ブヨに刺された場合の症状を緩和させる効果はないと言われています。むしろ悪化させることもあるとエビデンスデータにはあります。実は個人的には効果があるように思うのですが、いづれにしてもポイズンリムーバーで毒を吸い出せばいいわけではないということを覚えておきましょう。毒蛇に噛まれた場合ははっきりと有効性が認められているようです。
ステップ3:症状に応じて薬を塗る
カユミが生じる場合はレスタミンなどの抗ヒスタミン薬でカユミを抑えることができます。刺された部分に炎症やかぶれが起きた場合はステロイド剤軟膏を塗布しましょう。フルコートFは市販薬では一番強いランクのステロイド薬が含まれています。 抗生物質も一緒に入っているので強い腫れや痛みがあるときはおすすめです。虫刺されによるかゆみには3段階以上の強さのものでないとあまり効果がありません。処方される薬としてリンデロンVGはステロイド剤軟膏としてよく知られています。
カユミを抑えつつ、弱めのステロイドで炎症を抑えるムヒアルファEXも副作用の恐れがより少なく安全に使用できます。
番外編
虫刺されとは異なりますが、ハエ科の虫は塩分や水分を得るために、汗や涙を飲もうと顔周りに集ってきます。めまといなどが代表的ですが、顔やキャップなどにハッカ油が配合された虫よけを塗っておくことで忌避効果を得ることができます。サシバエにも効果的でハッカ油に限らず、ハーブ類が混合されていると効き目が高いです。一番効果的なのは自作の虫除けスプレーです。作るのが面倒と言う方はハッカ油とユーカリ油が配合されたアウトドアUV ホワイトもおすすめです。
よく使用するファーストエイドキット
怪我や対策に関わらず登山をするなら持ち歩くべきファーストエイドを紹介します。
ビクトリノックス クラシック
ビクトリノックスのクラシックは必要最低限のツールが収納されておりハサミ、ナイフ、ヤスリ、ヤスリの先にマイナスドライバー、ピンセットに楊枝がおさめられています。
ハサミは救急バンやテーピングを切るのに使用します。ヤスリは爪が伸びている時に使用し、ピンセットはトゲ抜きと様々な外傷で役立ちます。
体温計
登山中は外気温の差が朝と夜とで大きいので、実際に自分の体温がどのような状況なのかわからないことが多くあります。すこしダルさが続くなあ~とか、疲れやすいなあ~と感じたときに、「登山をしているから」と勝手な解釈で歩き続けると危険なので、体温計を使って自分のからだを理解することに努めます。
バンドエイド キズパワーパッド
外傷を起こした時に使用することもできますが、靴擦れを起こしそうな時の痛み箇所のクッションとして使用します。全面がパッドになっていて、しかも表面に完全防水素材を使用しているので剥がれにくくおすすめです。
ファーストエイドキットの整理方法
いままで紹介してきたファーストエイドキットの中には、そのまま持ち歩くと嵩張るし重くなるしというものも少なくありません。特に軟膏タイプのものは小さなケースに入れて、ネームシールを付けてファーストエイドに加えるとコンパクトになりおすすめです。
上の写真にあるケースと、登山終わりに必ず使用する保湿クリームや歯ブラシなどをまとめておくスタッフバッグは以下の商品になります。
ファーストエイドのおすすめ収納ポーチ
今まで説明してきたようにファーストエイドは細かなものが多く、怪我をした状態で取り出すことを考えると、直ぐに必要なものを見つけ使えるようなポーチが望ましいです。
山旅ファーストエイドキットポーチ-救急セットバッグ
X-PACで作られた超軽量でありながら耐久性に優れたキューブ型のスタッフサックです。ファーストエイドキットポーチ、救急セットバッグです。外側には十字にカットした白のX-PACを配置しています。2つのポケットになっているので、最も使用頻度が多い絆創膏を収納しておくことができ、ポーチの中を探さずに素早く絆創膏を取り出すことができます。
ドイター アクティブパパイヤ
ドイターのアクティブパパイヤはファーストエイドがどこにあるかを直ぐに視認できるように、収納袋が赤で作られています。袋の内側は中身が分かりやすく小分け収納に便利なメッシュポケットや仕切りが付いています。
山旅 キューベンスタッフバッグS
全てのファーストエイドは外側からも中身が視認しやすく、耐久性が高く長く使用できるダイニーマを使用しています。巾着型なので開口部を広げて中身のものを取り出すことができます。ファーストエイドだけではない使用方法が出来るのもおすすめです。
パーゴワークス W-FACEポーチ1
内側は2ルーム構造でファーストエイドを仕分けすることが出来ます。2つの気室を隔てる仕切りは可動式なので、自分用にカスタマイズが可能です。カラー展開が豊富なのでご自身が持っていないカラーを選んで目立たせることも可能です。
ファーストエイドキットをセットで手に入れる
いままで説明したものを買い揃えるのが面倒という方はひとまず必要最低限のものがセットになったファーストエイド キットが販売されています。まずは手始めにこういったセット商品を購入しても良いかもしれません。購入したら必ず中身をチェックして、心配なアイテムについては交換するなど確認をしましょう。