関東を代表する山域のひとつである丹沢。東側に位置し、独立峰として美しい山容を持つ大山は、古くから山岳信仰のある山として有名で、現在もその歴史を重ねつつ、登山を始める人の山として、老若男女の人々に受け容れる懐の深い山です。今回は大山の初心者にもおすすめの代表的なコースから玄人コースまで、周辺のおすすめスポットと共にご紹介します。
大山登山の特徴
富士山と同じく、周辺に同じ高さの山がない独立峰である大山は、遠方から見てもそれが大山と分かる事に整った山容が特徴です。山の麓にはこま参道、中腹には阿夫利神社の下社、頂上に本社を構え、山岳信仰を現在に伝えています。登山としては丹沢に属する山らしく急勾配で一気に標高を上げる厳しい山ですが、中腹まではケーブルカーを利用でき、整備された登山道を持つことから、登山初心者や子供を連れて初めての山登りにおすすめの山です。
大山の難易度別おすすめ登山コース
山の名前 | 大山 |
都道府県 | 神奈川県 |
標高 | 1,252m |
天気・アクセスなど | 大山の詳細情報 |
大山は独立峰ならではの、全方位から豊富な登山道が山頂に通じています。最も登山者が多い表参道を始め、静かな山歩きが楽しめる蓑毛コース、登山道のないバリエーションから沢登まで、登山者のレベルに応じた登山が楽しめます。
山頂へ至るコースもいずれも日帰りが可能です。首都圏から近くアクセスも良い登山口がある大山は登山者も多いので、明瞭な登山道で安心感がありながらも、地形図を見ながら登山ルートを見出すバリエーションルートでも登られるなど、多様な登り方ができる点でも人気があります。
今回はその中でも、全行程6時間以内で初心者におすすめの登山コース3つと、全行程8時間の経験者向きのコースを1つご紹介します。
コース①:阿夫利神社コース
大山ケーブルバス停から山頂を目指し、阿夫利神社下社、表参道を経由して登頂する、大山を代表する登山コースです。序盤は、かつて大山詣りとして多くの人々に登られてきた大山の歴史を感じつつ、後半は山の自然を一身に受けられるおすすめコースです。今回は下山をケーブルカー利用として、足に負担を残さないプランです。全行程でケーブルカーを利用すれば、子供と一緒に余裕を持って登ることもできて、子連れ登山にもおすすめです。
大山の玄関口である大山ケーブルバス停を歩き始めると、こま参道と呼ばれる、飲食店や旅館が並ぶ道を通ります。初めて来るのにどこか懐かしく、日本の歴史をその目で体感できる貴重な空間です。
大山ケーブル駅に到着し、そのまま登る場合は登山道を進みます。登山が初めて、また久しく運動していないという方には、下社までのコースを省略できるケーブルカーがおすすめです。
下社までのコースは急勾配の男坂、勾配は緩いが時間を要する女坂に別れ、今回は男坂を選びます。
勾配のきつい階段や登山道が連続するので、焦らずゆっくり息を整えながら登っていきます。
男坂を登りきると、遠くに相模湾が望める広々とした阿夫利神社下社に到着します。
一息ついたら、表参道と呼ばれる、より本格的な登山道を登ります。
ヤビツ峠方面へ続くイタツミ尾根との分岐。そのまま山頂へ向かいます。
最後の急登を終え鳥居をくぐれば頂上に到達です。
山頂は麓の伊勢原を始め、横浜や東京の街並み、箱根や富士山、表丹沢の山並みという、優れた眺望を堪能できます。
大山の良いところは実は下山後で、独立峰であるため目視確認しやすく、東京都心からでもその姿が見えます。「あの山に登ったんだ」という実感が山に登った後も味わえるのは、大山が今も愛される魅力のひとつです。
私は大山が見える小田急線沿線の街で生まれ育ち「あそこが大山」と親から教えてもらい「あんな大きい山に登る人がいるんだな」と子供心に感じていました。大人になってこの阿夫利神社コースで、妻になる当時の彼女と大山に登ったとき、子供が夢を叶えたような気持ちで満たされたのを鮮明に覚えています。あれから10年以上経ちますが、今でも暇を見つけては登り続けています。
コース②:見晴台コース
下社から東側の尾根に回り込んで山頂を目指すコースです。表参道同様に整った登山道で歩きやすく、所々で眺望もあります。表参道との周回コースにすれば大山の魅力をより感じることができます。
見晴台からは東丹沢方面を望めます。
山頂までは木道を含めた整備された登山道が続き、葉が枯れ落ちる晩秋以降は眺望も良く、気持ちの良い登山が楽しめます。
コース③:蓑毛コース
小田急線秦野駅から神奈川中央交通バス蓑毛行きに乗り、終点の蓑毛から山頂を目指すコースです。中間地点のヤビツ峠までは柏木林道を通り、ヤビツ峠以降は山頂西側からアプローチするイタツミ尾根を登ります。沢を渡渉したり、阿夫利神社ルートと異なり比較的静かな登山を楽しめるので、登山が初めての方は、経験者との同行か、2度目以降に登られるのが良いです。
スタート地点の蓑毛バス停。トイレや自販機があります。
序盤の春岳沢の渡渉。沢というより非日常的なところを通るので、思い出深い登山になります。
中間地点のヤビツ峠。時間に余裕があればレストハウスでゆっくり休むのも良いですね。
イタツミ尾根は静かな尾根道で、眺望こそ少ないですが、大山の一般ルートの中では人工物が少なく、自然そのものの魅力を感じながら登れる好ルートです。
番外編:ヤビツ峠コース
蓑毛ルートの中間地点であるヤビツ峠までマイカーでアクセスすれば、ヤビツ峠からの往復が可能です。片道1時間程度、往復2時間で歩くことができるので、お子さんを連れての登山に最適です。また本数は少ないですがヤビツ峠まで路線バス(秦野駅発)でアクセスできるので「今日は気軽に登りたいな」という時に、ヤビツ峠起点はおすすめです。
コース④:大山三峰山コース
一部登山道の無い道を通るバリエーションルートです。大山の北に位置する急峻な大山三峰山を登頂後、大山に登って阿夫利神社下社に下山します。地形図を読み取り現在地を確認できる読図力、長い距離も踏破できる脚力、足場の悪いところも歩ける技術といった、総合的な登山スキルが求められるので、しっかりとした経験と技術を身につけて登られると良いです。またこのコースの起点である東丹沢の広沢寺温泉は、日帰り温泉としておすすめです。大山三峰山の往復のコースとして、下山後に利用するのが良いです。
大山三峰山へは幾つか登山道がありますが、不動尻と呼ばれる地点からは急峻な道が続きます。
大山三峰山山頂。眺望はありませんが、道中の苦労の多い山なので、達成感が強く病みつきになります。
登頂後は大山を目指します。一見して広々とした道ですが「ここかな?」と、道と思える箇所が幾つもあり、地形図を良く見ないと間違えそうになります。
正規ルートの唐沢峠に着けば、安心して大山を目指せます。
コース⑤:春岳沢で沢登り-遡行後に山頂へ
蓑毛コースの途中で逸れると立ち寄れる髭僧の滝から入渓し、遡行後に登山道に合流し山頂を目指すコースです。
沢登りの入門としておすすめの春岳沢は、小粒の滝がいくつも現れ、沢登りの装備を持っていれば通年楽しめる沢として知られています。
登山道合流後に山頂を目指せば、1日を通して大山の自然を堪能できます。登山経験を深め、次のステップに進みたい方に最適です。
髭僧の滝から遡行スタートです。
遡行中は登りやすい滝が幾つも現れ、飽きさせません。
源頭部には最初の一滴が流れています。
遡行を終え、登山道へ向かう途中。足元が緩いので慎重に。登山道に合流したら山頂を目指し、登頂後は阿夫利神社へ下山します。
大山山頂の眺め
大山山頂は広く、東側には関東平野が望め、南面は相模湾、西側は富士山や箱根、丹沢の峰々の眺望が楽しめます。春から秋の自然の息遣いを感じる時も良いですが、晩秋以降のキリッと冷えた日に山頂へ行くと、暑い時期には見えない、くっきりと鮮明な景色が望めます。
東側。都市群と山の融合は丹沢ならでは。
西側の山並み。表丹沢の山々が一望できる。
遠くに相模湾が見える。
大山トイレ情報
大山ケーブルバス停、大山ケーブル駅、下社、山頂、ヤビツ峠、蓑毛バス停の各所にトイレがあります。山頂のトイレは冬期に閉鎖する可能性があるので、下社で余裕を持って手洗いを済ませておくと良いです。
大山の駐車場情報
麓の大山ケーブルバス停付近に駐車場が幾つかあります。平日は割と空いていますが、紅葉や夏の繁忙期では登山口から遠いところに停める事もあるので、早めに到着すると良いです。
ヤビツ峠にも駐車スペースがありますが、蓑毛には駐車スペースはないので、公共交通機関でのアクセスになります。
大山までのアクセス
マイカーの場合
新東名、伊勢原大山ICから10分ほどでアクセスできます。ヤビツ峠へは、東名秦野中井ICから40分ほどで到着します。
公共交通機関の場合
小田急線伊勢原駅から神奈川中央交通バスを利用、大山ケーブル行き終点で下車します。都心からのアクセスは新宿から大山ケーブルまで90分ほどと良好です。蓑毛へは、小田急線秦野駅より神奈川中央交通バスを利用、蓑毛行きに乗車、終点で下車します。後述のヤビツ峠行き(臨時の直行便除く)でも途中で下車できます。ヤビツ峠へは、小田急線秦野駅より神奈川中央交通バスを利用、終点のヤビツ峠で下車します。本数が少なく乗る人も多いので、なるべく早めの到着がおすすめです。乗り切れない場合は直通の臨時便も出ています。
大山周辺の観光情報
茶寮 石尊
大山ケーブル、阿夫利神社駅を降りてすぐにあるカフェです。下社までのハイキング、天候が悪く山頂までは行けない時、下山後に余裕がある時などにおすすめです。お店からの眺望も良く、落ち着いた雰囲気で登山の思い出を振り返るのに最適です。見た目も味も素晴らしいメニューで、山に登らなくても訪れたくなるお店です。
旅館 元瀧
大山ケーブル駅を降りて間もなくの場所に位置する旅館で、日帰り入浴が可能です。登山後の入浴は、長時間の移動で疲労した身体の疲れを取るにはおすすめで、下山してすぐに汗を流せるのはとてもありがたいです。この先のこま参道で食事をすれば、お腹も満たして帰れます。
清水屋みやげ店
大山ケーブルバス停から少し下ったところにあるお店で、フワフワのかき氷が大人気です。真夏の山で熱々になった身体に染み渡る感覚は病みつきで、何度も訪れたくなります。定番かき氷から黒蜜など、豊富なメニューも魅力的です。ケーブルバス停から離れたところにあるので、マイカーでのアクセスがおすすめです。
大山にあると便利な登山装備
低山は高山と比較して気温差は少なく、樹林帯は特に蒸し暑いので汗をかき体力を奪われます。発散した水分を補給するのに水筒は欠かせませんが、コンビニで買った飲料ではすぐに常温になってしまい、冷えていた飲み物がいつの間にかホットドリンクになっていたことも。山での冷えた、温かい飲み物を持ち込むには、登山専用の保温・保冷力の高い水筒がおすすめです。
山に持ち込むのに丁度良い量とスリムな本体でパッキングにも最適です。
大山で登山も下山後も楽しもう!
大山は深い歴史と美しい山容を持ち、アクセス良好で登りやすい山として人気の独立峰です。登山のみならず、麓には大山の魅力を楽しめるスポットに溢れ、今回ご紹介した場所の他にも、下山後に立ち寄れる鶴巻温泉や東丹沢の広沢寺温泉もあり、登山と温泉という理想の1日が過ごせます。登山の後も1日を通して楽しめるエリアなので、初めて登山をする人におすすめです。山仲間と気軽に訪れたり、家族での思い出作りに、是非大山に登ってみてくださいね。