登山者の誰もが意識をするワード、それは「日本百名山」山の文学者、深田久弥氏が選定した百座の山は、どの山も美しい山容と深い歴史、自然に覆われた名山であり、初刊の1964年以降から現在に至るまで、登山者にとって目指すべき頂となり、愛されて止まない山々です。今回は3月からでも登れる日本百名山の山々をご紹介します。
3月に登れる日本百名山とその登山条件
3月の春山登山の魅力
3月は綺麗な山の花々や山野草が登山道を彩る華やかなシーズンです。場所を選べば暖かで歩きやすく、山が人々を迎え入れてくれる時期でもあります。
以下の記事では、百名山ではありませんが3月の春山登山の魅力をご紹介しています。
3月の百名山登山も、花々や雪解けとともに姿を見せる動物たちとの出会いが待っています。
ぜひご覧ください。
条件①:【雪の有無】雪があっても難易度の低い登れる山を
深い雪と厳しい寒さにより経験者のみに登山が許される厳冬期。3月は厳冬期を終え、雪解けが進んで低山では雪のない山が出始め、木漏れ日と心地良い風が吹く清々しい登山が出来る季節です。
高所では降雪がある地域が続き、降雪がほとんどない高所の山では雪が残り、岩と雪のミックスといった難易度の高いルートになる場所も出てきます。
日本百名山を登る際は雪がない、もしくは雪があっても高度な技術を必要としない山を選ぶのが良いです。
私は残雪の時期に北アルプスの山へ行くことがありますが、この時期の登山は結構しんどく、雪のない前半部は仲間と話す余裕や、稜線を見上げて高揚していくのですが、積雪が増え、雪渓越え、夏道が使えず急斜面をアイゼンで登って頂上を目指すという苦行(それが楽しいのですが)をしています。
雪の有る無しで体力の消耗もかなり違い、装備の重量、ポイントの通過にかかる時間と労力が大きいです。そんな残雪期の山を「なんでこんなことやってんだ」と頭を悩ませながら登っています。
条件②:【標高】気温差や降雪を考慮して低い標高がベスト
先の降雪にも関わりますが、3月は気温差の激しい時期であり、里山であっても前後数日で気温が大きく変わります。前日まで半袖でも登れた山が、当日はアウターを着ないと凍えてしまうことも珍しくありません。
日本百名山の中には2,000mを越える山があり、場所によっては3月中でも登れる難易度ですが、高所になるほど気温差や天候の変動、降雪によるルートの変化が大きくなるので、安全で確実に登るには2,000m以下、または日帰りでも登れる山がベストです。
約10年前、3月頃の某山域にテント泊で山頂を目指すことがありました。麓は少し寒い程度、数日間の気温も暖かだったのに、当日は穴という穴が凍りついて窒息するのではと思うほどに寒く、2,000mを越えた野営予定地には深い雪があり、視界は吹雪でほとんど遮られ、わずかに見えた山頂は人間が来るところじゃないと言わんばかりの烈風が吹き荒れていました。
翌日は天気が回復し気温も戻りましたが、戦意喪失で下山、事前準備はしていたとはいえ経験が足らず、3月だからと根拠のないどこかで油断をした自分を猛省をした登山でした。
条件③:【日数】日帰りか1泊2日で目指せる場所を
3月は通年営業の山小屋を除き、ほとんどの山小屋がまだ小屋開きをしていない時期です。
安全を確保できる環境が限られ、長時間、または数日間かけて登る山には、高い技術と深い知識が必要です。
3月に百名山を目指す場合は、日帰りか標高の低いところでテント、もしくは山小屋泊まりの1泊2日で登頂をするのが安全です。登頂の日に宿泊地=標高の低いところに戻るのが良いです。
3月に登れるおすすめの日本百名山
【関東】丹沢山:標高1,567mに位置する静かな名山
神奈川県の奥地に位置する丹沢山は、深い森に囲まれ広く静かな山頂を持つ名山です。
主脈と呼ばれる山頂へと続く稜線上からは丹沢西部の山々、東方には遠く東京スカイツリーが望める程の市街地の眺望があり、丹沢山が人間と自然の狭間で長い時を見守ってきたことを感じさせます。
朝の早い時間に登山口の大倉を出れば日帰り可能圏内ですが、山頂に佇む通年営業のみやま山荘に贅沢に宿泊し、日本百名山での夜をゆっくり過ごすのもおすすめです。
登山道は技術的な難所はなく、積雪時も軽アイゼンを携行すれば対処できます。
【関東】雲取山:1泊2日で目指す東京都最高峰の2,017m峰
奥秩父の東方に位置し、東京都の最高峰である雲取山は、奥秩父縦走における要の山、東京都・山梨県・埼玉県の境に位置する山、花の百名山に選定されているなど、登山者に限らず様々な縁がある山です。
山頂に至るまでは技術的な難所はなく積雪時も軽アイゼンで対処できますが、アクセスや所要時間を考慮すると1泊2日の行程を要する山としても知られています。山頂は眺望が良く、奥秩父の山々、富士山などが良く見渡せます。
雲取山を始め、奥秩父は日本百名山に選定された山を擁しています。雲取山のみを目指すだけでも十分な登り応えですが、東方の雲取山、もしくは西方の瑞牆山方面からスタートし、一気に日本百名山の頂を目指すツワモノな方もいます。私も途中のルートから2泊3日で縦走しましたが、有名アルプスにも劣らない充実した山行でした。
【関東】筑波山:茨城が誇る日本百名山へ日帰りの山歩き
茨城県に位置する標高877mの筑波山は、男体山と女体山という2つの頂を持つ双耳峰の山です。
遠方からもそれと分かる際立った山容を持ち、山頂へは登山道の他、ケーブルカーやロープウェイでも向かえる行楽の山としても有名です。
多彩な登山ルートがあるので、一度といわず何度でも登り、楽しめるのが筑波山の魅力です。
頂上は遮るもののない展望があり、とても低山とは思えない広大な平野が望めます。
3月の積雪は少ないので心配することは少ないですが、念の為軽アイゼンを携行しておくとお守り代わりとして安心です。
【中部】霧ヶ峰:ロープウェイでも登山でも行ける信州の名山
長野県、八ヶ岳中信高原国定公園に位置する霧ヶ峰は標高1,925mの広々とした山容と360度の大展望が特徴の名山です。
最高峰である車山山頂には展望リフトが通じており、3月でも比較的安全に山頂を目指すことが可能です。徒歩で目指す際も軽アイゼンがあれば十分に登ることが可能です。
霧ヶ峰最大の魅力である広大な山頂と眺望からは、諏訪富士の別名を持つ蓼科山が眼前にあり、八ヶ岳、南北アルプスなどが望めます。日本有数の山岳エリアである長野県らしく、神々が宿っていると思わせる美しい山々が一堂に会する眺望は思わず息を呑んでしまいます。
日帰り可能な山ですが、せっかくの日本百名山、霧ヶ峰付近のペンションや八ヶ岳の麓、原村で宿泊するのも良いですね。
【九州】霧島山:最高峰の韓国岳にダイナミックな眺望の山旅へ
現在も活発な活動を続ける火山帯、霧島山群。最高峰、1,700mの韓国岳は周回ルートで3時間30分ほどで歩ける山として人気があり、山を取り囲む動植物との共生を見ながら歩くルートは、霧島山ならではの山旅です。
3月は予報と最新情報の取得は必須ですが、防寒対策をして登れば難所もなく安全な登山が可能です。
霧島山が育む自然の美しさはとても秀逸で、この地が年間を通して登山者のみならず、キャンプを始めとした観光地としても親しまれていることがそれを物語ります。
登山道含め、火山帯のダイナミックな眺望は、霧島山を登る人への最高のご褒美です。
【九州】開聞岳:美しい山容の薩摩富士へ日帰り登山
鹿児島県、薩摩半島に位置する開聞岳は、別名薩摩富士と呼ばれる際立った存在感を放つ山です。
周囲の海と合わさってその美しさと威厳が作り出す造形美、裾野には菜の花が一面に咲く華やかさと、登っても眺めても、薩摩半島の自然を心ゆくまで楽しめます。
登山ルートは往復4時間前後で歩け、事前の情報確認と準備を行えば、難所もなく安全に山頂を目指すことができます。
頂上から望む薩摩半島の心が晴れ渡る眺望の他、夕景、街から望む開聞岳の夜景など、日帰りで終えるにはもったいない開聞岳に抱かれる一時。観光で滞在し、開聞岳の魅力を骨の髄まで堪能するのもおすすめです。
3月から登る日本百名山で春山登山の魅力に触れよう
登山者の誰もが頂を意識する日本百名山。登頂に日数、技術を要する山だけでなく、万全の準備をすれば初心者からでも登れる山があります。3月は山野草や美しい花々が山を彩り、麓から山頂まで、山全体を愛でながら登れる最高のシーズン。この時期に登れる日本百名山を目指せば、最高の山旅になることは間違いありません。
3月の日本百名山登山で、ぜひ春山の魅力に触れてみてください。