シュラフの快適性は睡眠の質に直結し疲労回復効果を生み出す一方で、場合によっては睡眠不足や凍傷などから命に係わる事態にもなりかねない重要な装備です。また、テントやシュラフといった装備は重量があるため、軽量化を図ることで装備全体の軽量化につながりやすいものです。
今回は、重要装備であるシュラフの選び方のポイントを解説し、一般的な山行で必要になるであろう3つの温度帯に分けて、軽量で快適なおすすめの登山用シュラフを紹介します。
快適に寝ることができるダウンシュラフの選び方
1, コンフォート温度
コンフォート温度とは、快適に寝ることができるテント内の温度を示しています。コンフォート温度に合わない環境で使用すると、暑すぎて寝ることができなかったり、寒すぎて目が覚め最悪の場合には命に係わる状況にもなりかねません。
例えば、テント内外の気温差が約3度(ダブルウォールテントの場合)で、ダウンジャケット、ダウンパンツを着用して寝ることを考えると、以下のような考え方のもとシュラフを選ぶ必要があります。
- 現地の最低気温10度→(内外の温度差3℃ほどなら)テント内の気温13度→仮にダウン上下で気温3〜5度をカバーするとすると→コンフォート温度16〜18度のシュラフが快適な環境となる
以下の表は赤岳鉱泉(標高2215m)周辺の月間最低気温を表したものです。
月 |
最低気温 |
月 |
最低気温 |
1月 |
-15.3 |
7月 |
10.2 |
2月 |
-16.3 |
8月 |
10.8 |
3月 |
-10.6 |
9月 |
7 |
4月 |
-4.9 |
10月 |
-1 |
5月 |
0.6 |
11月 |
-5.9 |
6月 |
5.6 |
12月 |
-11.6 |
上の表を見ると赤岳鉱泉では6月〜9月まではコンフォート温度14度前後のシュラフでもダウンジャケット、ダウンパンツを着用すれば寒くて目が覚める可能性が少ないことが分かります。
このように、テント泊を行う場所の最低気温をもとに装備も考慮のうえコンフォート温度を選択することが快適なテント泊へとつながります。
2, 形状【マミー型orレクタングラー型、ファスナーの位置】
シュラフには大きく分けて、「マミー型」と「レクタングラー型」の2種類の形状が存在します。
マミー型シュラフは、その名の通り、エジプトのミイラ(マミー)のような形をしています。頭部から足元にかけて徐々に細くなるデザインが特徴で、体にフィットするように作られています。
一方でレクタングラー型は、四角い形状のシュラフで、マミー型と比較するとより広々としており、自宅のベッドに近い寝心地を提供します。
保温性や軽量性に長けているマミー型が登山では主流になります。
体にフィットするデザインのため、空気の循環が少なく体温を効率的に保持できるため、寒い環境下でも暖かさをキープしやすいです。また、余分なスペースが少ないため、素材を節約でき、結果的に軽量かつコンパクトになりやすいです。
しかし、快適性では少しデメリットに感じる部分もあるでしょう。体にフィットする分、内部での動きが制限されがちです。寝返りを打ちにくいなど、寝心地にクセを感じる方も少なくはないでしょう。
基本的には、登山に用いるシュラフであれば「マミー型」をおすすめします。また、細かい部分ですが、ファスナーの位置が利き手側にある方が操作しやすいためおすすめです。
3, 中綿の素材 (保温性や重さ)
シュラフの保温性や重さを大きく左右する中綿について、「ダウン」と「化学繊維」の2種類に分けて紹介します。
ダウン
ダウンとは、ガチョウやアヒルの胸元にある細かくて軽い羽毛のことを指します。保温性が非常に高く、軽量であることから高品質なシュラフの素材として広く利用されています。
メリット
保温性:空気をたくさん含むことができるので、非常に高い保温性を持ちます。
圧縮性と軽量性:軽くて体積を小さく圧縮できるため、持ち運びに便利です。
耐久性:適切なケアをすれば長持ちし、何年もの使用が可能です。
デメリット
値段:化学繊維に比べて高価です。
湿気に弱い:濡れると保温性が著しく低下し、乾燥に時間がかかります。
メンテナンス:適切なケアが必要で、洗濯や保管に注意が必要です。
化学繊維
化学繊維は、濡れても保温性を維持しやすいなど、特定の状況下での利点があります。
メリット
価格:ダウンに比べて手頃な価格で購入可能です。
濡れても保温性を保つ:湿気に強く、濡れても保温性が大幅に低下しにくいです。
お手入れが簡単:ダウンよりもメンテナンスが容易で、洗濯や乾燥が比較的簡単です。
デメリット
体積と重さ:ダウンに比べると重く、圧縮性が低いため、持ち運びには不便さがあります。
耐久性:時間が経つと中綿が固まりやすく、保温性が低下しやすいです。
4, シェル素材 (重さや撥水性能)
シュラフのシェル(外側の生地)も、シュラフの耐久性や機能性に大きく寄与します。特に、生地の厚みと撥水性は、シェル素材を選ぶ際に注目すべきポイントです。
生地の厚みは「デニール」という単位を用いて表されます。このデニール数が大きいほど、生地は厚く丈夫になりますが、その分重くもなります。
その一方で、デニール数が小さいほど生地は薄く軽量になりますが、耐摩耗性などが低く耐久性に劣ります。
また、水分に弱いダウンを中綿に用いたシュラフでは、シェルに撥水処理が施されているかどうかは大きな違いを生み出します。テント内は、結露しやすい空間でもあり往々にしてダウンが水分でやられてしまう事態になりかねません
また、水分に弱いダウンを中綿に用いたシュラフでは、シェルに撥水処理が施されているかどうかは大きな違いを生み出します。テント内は、結露しやすい空間でもあり往々にしてダウンが水分でやられてしまう事態になりかねません。
シェルの撥水処理がされているかどうか、シュラフを選ぶ際の一つのポイントになります。
シュラフを比較する際の注意点
比較するのは、快適温度と重さ
登山用のシュラフを選ぶ際に、主に比較ポイントとなるのが重さと快適温度です。
重さは、カタログ値を見れば誰しもが判断可能なものですが、快適温度はそうもいきません。メーカーによって、コンフォート温度、リミット温度、使用温度域などと表現が異なるため、どのシュラフが最も温かいのか、どのシュラフが最適なのかを判断することは難易度が高いです。
快適温度の基準【ヨーロピアンノーム】
そこで、ヨーロッパではヨーロピアンノーム(EN13537)という規格を定め公平な比較をしやすくしています。このヨーロピアンノームでは、主に以下の3つの温度指標が定められています。
- 快適温度:一般的に女性が快適に眠れるとされる最低温度。この温度以上であれば、リラックスした状態で眠ることができるとされています。
- 限界温度:一般的に男性が快適に眠れるとされる最低温度。この温度は、体を丸めて熱を保持する姿勢で寝た場合に快適に眠れる限界を示しています。
- 極限温度:生存は可能でも、寒さを感じる可能性が高い温度。長時間この温度で過ごすと健康に悪影響を及ぼす可能性があります。
3つの温度域に分けて紹介
ヨーロピアンノームにおける快適温度をもとに日本の山岳地域を考えると、一般的な山行であれば以下の3つの温度域に大別することができるかと思います。
- ① 2000m級までの夏山登山や低山、沢などの比較的高温域
- ② 3000m級の高山を含めた夏を中心とする中温域
- ③ 外気温が0度になるような春先や秋の高山における低温域
それでは、それぞれの温度域におけるおすすめシュラフを紹介していきます。
シュラフに重要な重量や快適温度帯などの基本的スペックに加えて、分かるものはダウンの質や使用している素材のデニール数も表に記載しています。
快適温度域別 おすすめシュラフ
①コンフォート温度14度前後のシュラフ
この温度域のシュラフは3000m 級のアルプスでのテント泊登山で使用するのには若干不安があります。夏山登山において2000m前後のテント泊や、沢、源流においての宿泊などに適した温度域です。暑い季節のファミリーキャンプなどでも活躍するシュラフです。
厳冬期登山においては、冬山用のシュラフのインナーシュラフとしても活用できます。
※横スクロールで表がスクロールできます。
ブランド |
シートゥサミット |
モンベル |
イスカ |
OMM |
スタティック |
モデル名 |
スパーク7C |
シームレス ダウンハガー800 #7 |
エアドライト 140 |
Mountain Raid 100 |
アフターバーナースリーピングバッグ |
適合身長 |
最大185cm |
最大183cm |
最大185cm |
最大183cm |
最大173cm |
重量(g) |
363g |
391g |
300g |
380g |
375g |
ダウン量(g) |
150g |
不明 |
140g |
化繊量:60g(上面) 40g(背面) |
178g |
価格(税込) |
¥38,060 |
¥26,400 |
¥19,800 |
¥39,600 |
¥48,400 |
収納サイズ(cm) |
9×12.5×23cm |
Φ12×24cm |
10×18cm |
Φ15×22cm |
Φ13×23cm |
温度域 |
ISO23537 |
EN13537採用 |
使用温度域は8度(摂氏) |
コンフォート温度=14度(摂氏) |
EN13537採用 コンフォート温度=13度(摂氏) リミット温度=10度(摂氏) |
フィルパワー |
850+フィルパワー |
800フィルパワー |
750フィルパワー |
PrimaLoft® Gold クロスコア |
850フィルパワー人工羽毛 |
シェル素材 |
10D |
10D |
コーデュラ |
Point Zero® |
10D |
撥水ダウン |
〇 |
〇 |
〇 |
× |
〇 |
【シートゥサミット】 スパーク7C
シートゥサミットの最新モデルで、軽量性と保温性を高次元で融合させた高性能シュラフです。高品質のダウンを採用していることで、収納時には驚くほどの圧縮性と363gという軽さを実現しています。また、撥水加工を施したシェルは、夜露や湿気から中綿を守り、安定した保温性を保証しています。
ブランド |
シートゥサミット |
モデル名 |
スパーク7C |
適合身長 |
最大185cm |
重量(g) |
363g |
ダウン量(g) |
150g |
価格(税込) |
¥38,060 |
収納サイズ(cm) |
9×12.5×23cm |
温度域 |
ISO23537 コンフォート温度=11度(摂氏) リミット温度=7度(摂氏) |
フィルパワー |
850+フィルパワー |
シェル素材 |
10D |
撥水ダウン |
〇 |
【モンベル】 シームレス ダウンハガー800 #7
モンベル独自のスパイダーバッフルシステムを搭載しており、ダウンの偏りを無くし、縫い目が少ないためコールドスポットが生まれにくい特徴的なシュラフに仕上がっています。シェルには撥水加工が施され、結露などの濡れにも安心です。
ブランド |
モンベル |
モデル名 |
シームレス ダウンハガー800 #7 |
適合身長 |
最大183cm |
重量(g) |
391g |
ダウン量(g) |
不明 |
価格(税込) |
¥26,400 |
収納サイズ(cm) |
12×24cm |
温度域 |
EN13537採用 |
フィルパワー |
800フィルパワー |
シェル素材 |
10D |
撥水ダウン |
× |
【イスカ】 エアドライト 140
高い引き裂き強度と耐久性を持つコーデュラナイロンで仕上げたシュラフです。フードとジッパーを取り除きミニマムでシンプルな構造にしあげています。寒さに敏感な足元には多めの段を充填し保温性を向上させるなど細やかな作りも魅力です。シェルには撥水加工が施され、結露などの濡れにも安心です。
ブランド |
イスカ |
モデル名 |
エアドライト 140 |
適合身長 |
最大185cm |
重量(g) |
300g |
ダウン量(g) |
140g |
価格(税込) |
¥19,800 |
収納サイズ(cm) |
10×18cm |
温度域 |
使用温度域は8度(摂氏) |
フィルパワー |
750フィルパワー |
シェル素材 |
不明 |
撥水ダウン |
〇 |
【OMM】 Mountain Raid 100
化繊タイプのシュラフです。ダウンのようにコンパクトな収納には適していません。しかしながら化繊ならではの濡れに強い特徴と、躊躇なく洗濯ができるメンテナンスのしやすさが魅力です。気密性の高いフード回りの保温力に特徴のあるシュラフです。
ブランド |
OMM |
モデル名 |
Mountain Raid 100 |
適合身長 |
最大183cm |
重量(g) |
380g |
ダウン量(g) |
化繊量:60g(表面) 40g(背面) |
価格(税込) |
¥38,500 |
収納サイズ(cm) |
15×22cm |
温度域 |
コンフォート温度=14度(摂氏) |
フィルパワー |
PrimaLoft® Gold クロスコア |
シェル素材 |
不明 |
撥水ダウン |
× |
【スタティック】 アフターバーナースリーピングバッグ
850+フィルパワーのAIR FLAKEという新開発の人工羽毛を用いたリラックスして眠れるワイドフィットの化繊綿3シーズンシュラフです。数泊の縦走などを想定して作られており、水分に強い化繊綿を使用することで思わぬ水分にも強い設計となっています。
ブランド |
スタティック |
モデル名 |
アフターバーナースリーピングバッグ |
適合身長 |
最大173cm |
重量(g) |
375g |
ダウン量(g) |
178g |
価格(税込) |
¥48,400 |
収納サイズ(cm) |
Φ13×23cm |
温度域 |
EN13537採用 コンフォート温度=13度(摂氏) リミット温度=10度(摂氏) |
フィルパワー |
850フィルパワー人工羽毛 |
シェル素材 |
10D |
撥水ダウン |
〇 |
コンフォート温度9度前後のシュラフ
ダウンジャケット、ダウンパンツを活用することを前提に考えると、この温度域のシュラフは最も汎用性が高く、3シーズンにおけるアルプスのテント泊登山で活用しやすい温度域のシュラフです。冬の名残りを見せる初春や、シルバーウィーク辺りからの秋山における高所登山では若干頼りなさを感じます。
※横スクロールで表がスクロールできます。
ブランド |
モンベル |
イスカ |
ファイントラック |
ニーモ |
グリュエッツィバッグ |
モデル名 |
ドライ シームレス ダウンハガー900 #5 |
エアプラス 280 |
ポリゴンネストイエロー |
フォルテ エンドレスプロミス35 |
バイオポッドダウンウールサマー185 |
適合身長 |
最大183cm |
最大185cm |
最大185cm |
最大183cm |
185cm |
重量(g) |
467g |
550g |
695g |
900g |
850g |
ダウン量(g) |
不明 |
280g |
不明 |
再生ポリエステル |
375g |
価格(税込) |
¥44,000 |
¥40,700 |
¥38,280 |
¥28,600 |
¥69,300 |
収納サイズ(cm) |
Φ12×24cm |
Φ14×24cm |
Φ17×30cm |
43×21cm |
Φ17×19cm |
温度域 |
EN13537採用 |
使用温度域は2度(摂氏) |
EN13537採用 コンフォート温度=7度(摂氏) リミット温度=3度(摂氏) |
快適使用温度=7℃ 下限温度=2℃ |
EN13537採用 コンフォート温度=8度(摂氏) リミット温度=3度(摂氏) |
フィルパワー |
900フィルパワー |
800フィルパワー |
なし |
なし |
650+フィルパワー(70%) ウール(30%) |
シェル素材 |
13D |
コーデュラ |
シート状立体保温素材ファインポリゴン |
ポリエステルリップストップ |
20D |
撥水ダウン |
× |
〇 |
◎ |
〇 |
× |
【モンベル】 ドライ シームレス ダウンハガー900 #5
モンベルのドライ シームレス ダウンハガー900 #5は、軽量かつ高い保温性を誇るプレミアムシュラフです。このシュラフの最大の特徴は、シームレス構造により冷気の侵入を最小限に抑えると同時に、ダウンのずれを防ぐスパイダーバッフルシステム設計です。900フィルパワーのEXダウンを使用しており、軽量でありながら優れた保温性を備えています。また、撥水加工が施されているため、湿気の多い環境下でも性能を維持してくれます。
ブランド |
モンベル |
モデル名 |
ドライ シームレス ダウンハガー900 #5 |
適合身長 |
最大183cm |
重量(g) |
467g |
ダウン量(g) |
不明 |
価格(税込) |
¥44,000 |
収納サイズ(cm) |
Φ12×24cm |
温度域 |
EN13537採用 |
フィルパワー |
900フィルパワー |
シェル素材 |
13D |
撥水ダウン |
× |
【イスカ】 エアプラス280
イスカのエアプラス280は、軽量性と保温性を兼ね備えたダウンシュラフです。プレミアムダウンを贅沢に280g使用しながらも、550gという軽さを実現しています。春から秋にかけての3シーズンに適しており、冷気をしっかりと遮断し快適な睡眠をサポートします。撥水加工された外側の生地は、朝露や湿気から中綿を守り、ダウンの性能を最大限に引き出します。
ブランド |
イスカ |
モデル名 |
エアプラス 280 |