分厚い壁のような雪を纏った冬が終わり、ヤマザクラを始めとした花々が美しく、鮮やかな山を気持ち良く歩ける春山の季節がやってきました。麓から山頂まで色とりどりの花々が埋め尽くす登山ができるのは、春の時期ならでは。今回は春山の醍醐味である花を見ながら登れるおすすめの山と春山の楽しみをご紹介します。
花に眺望に食事まで楽しめる-春山の魅力
魅力①:麓から頂上まで美しい春を彩る花の世界
春山の魅力といえば、なんといっても全身を色鮮やかなドレスで包んだような世界に入れるところが魅力です。
鮮やかな木々から入る優しい陽光の色、山肌を撫でるように通っていく風に揺れる花々、麓からも頂上からも美しい景色。挙げていけばキリがないほどの彩りに溢れた世界があります。
振り返ればついこの間のように思い出せる冬山は、分厚い城壁に突っ込むような感覚で、気軽に行こうものなら全力で弾き返される万全のセキュリティがあり、山に入れば厳しいを楽しむ気持ちがなければ難しい山もありました。
一変して春山は「ようこそ」と迎え入れてくれる暖かな感じがあり、一歩山に入れば日常生活には沢山の色があり、大きく広い眺望での彩りだけでなく足元を見ても、同じ形は2つとない花々の世界があります。
魅力②:花の香り・通り抜ける爽やかな風-五感で春山を楽しむ
彩りの眺望、身体を通り抜ける爽やかな風の感覚、生命を感じる匂い、山から聞こえる動植物の声、山で採れる山菜の美味しさ。どれでも春山だからこそ感じられる感覚で、五感全てを使って楽しめるのが春山です。
個人的には山登りデビューは春山が特におすすめで、街での生活ではまた違う感覚が味わえる山の世界を、五感をフルに使って楽しめる春山から始めると、山の魅力をダイレクトに感じられます。
そして春山の魅力は1度だけでは終わりません。
デビューした1年目と翌シーズンの2年目では、同じ山に来たのになんか違うというのを感じます。温度感、登山道のちょっとした変化など、同じ山、同じシーズンでも花の開花時期が異なったりと、2度と同じ環境は訪れない。登山の王道の魅力である「同じ山は2度とない」を年を追うごとに感じやすいのも春山で、そしてその年毎で成長し変化していく気持ちで登るので「同じ気持ちで登れる山もない」ということにも気づけます。
魅力③:春山は登山の感動を沢山の仲間と共有ができる
山の楽しみ方は人それぞれですが、自然の中で感じた気持ちを沢山の仲間と共有できるのが、春山ならではの魅力です。
ここで言う仲間とは登山を趣味とする仲間だけでなく、職場・旧来の友人・恋人・家族など、生きていると必ず所属する沢山のチームのことで、冬山や特殊な登山スタイルに求められる技術を必要とせず、比較して気軽に登れる環境が春山は整っています。
景色が綺麗、気持ちの良い疲れ、山で感じたひとつひとつを共有し、思い出とすることが出来る喜びは高所の山を苦労して登るのと時として同じかそれ以上に大きく、大人になればなるほど少なくなる、沢山の仲間との実体験の共有は、春山がくれる素敵なプレゼントです。
花を見ながら快適に歩ける-春山登山に必要な装備
ここでは春山の登山に必要な基本的なウェアや道具をご紹介します。
花を楽しみながら登る春山登山では、基本的には雪がなく整った登山道を歩くことを想定した装備で大丈夫です。
アウトドア向けのウェア・登山靴・バックパック・レインウェア・ヘッドライト・地図・食糧・水分を準備しておくと安心です。この他現地で調理できるクッカーや水筒など、山を快適で安全に歩ける装備も以下のリンクでチェックして頂けると幸いです。
各ページで装備に関して詳しく説明しているので、ぜひチェックしてみてください。
春山で楽しめる山の花々
ヤマザクラ
日本の固有種で、麓からも山肌に突然桜が咲いているのが分かるかと思います。
花期は3月下旬から4月中旬にかけてで、樹高は15mから25mに達します。
春山の花といえばと思い浮かべる代表格で、登山中に見かけるとつい足を止めて眺めてしまいます。
ツツジ
ヤマザクラと同じく、春山の花として広く知られています。
花期は4月頃から。6月初旬でも花が見られるので、春山シーズン終盤でも楽しめる花としても親しまれています。
ツツジには幾つか種類があり、トウゴクミツバツツジ、ミヤマキリシマ、シロヤシオなどがあり、どの花も見つめると吸い込まれるような美しい色をしています。
花は大きく数ある山の花々の中でも存在感があり、一面に広がるツツジの群落は圧巻です。
スイセン
ヒガンバナ科の花で、黄色や白色の可愛らしい花を咲かせます。
花の形状だけでなく香りも特徴的で、甘さと透き通った感覚を覚える香りがします。
開花は12月から5月頃と幅があり、群生を見ると可憐で健気に咲く姿がとても印象に残ります。
カタクリ
かつて球根から作られていた片栗粉としても知られる多年草です。
花期は早ければ3月頃から見られ、春の妖精とも呼ばれている通り、可愛らしく山を彩る存在として、歩くことを楽しくさせてくれます。
カタクリを見られる期間は短く、年間で2ヶ月程度しかお目にかかれないので、春山に登る際はチェックしてほしい花のひとつです。
装備とウェア
登山の三種の神器
ここでは登山専用を揃えておきたい三種の神器、登山靴・レインウェア・バックパックをご紹介します。リンク先の情報には大型のバックパックや冬を想定した情報もありますが、春山に向けて経験者の方は改めて知識の整理を、初心者の方は知っておくと登山が快適になるので、ぜひご覧ください。
開花に合わせて登りたい-春におすすめの山
ここでは3月から5月のシーズン中にぜひ登っておきたい、花を見ながら歩けるおすすめの春山をご紹介します。
ご紹介するのは日帰りが可能で、3月から5月の間におすすめの花が開花する山となっています。
仲間と花を愛でながら、ソロで春の到来を感じながらぜひ登ってみてください。
【関東】高尾山から小仏城山-[桜の見頃:4月上旬〜4月中旬]
関東を代表する山のひとつであり、知らぬ人はいない高尾山エリアは、豊かな植生と眺望を楽しめながら、豊富なルートと整備された登山道が多いため、春山の気軽なハイキングにおすすめです。
適期は4月上旬から中旬にかけてで、高尾山の桜が見頃を迎えます。
気温も歩きやすい時期なので、半袖、もしくは薄手の長袖にウインドブレーカー、防寒にコンパクトなソフトシェルを持っておくと丁度良いです。
高尾山周辺は春の山を美しく染る桜のスポットが幾つかあり、開花に合わせて登れば文字通り天国が待っています。
初心者の方は山の魅力を全身の毛穴からたっぷり吸い込んで、経験者の方は食材を贅沢に持ち込んでプチ花見を楽しんだり、ソロでもグループでも関東の春山を存分に満喫できます。
ルートは高尾山口をスタートして小仏城山を目指す縦走ルート。今回は千木良に降りて相模湖駅行きのバスに乗るルートにしていますが、小仏方面を下山しても良し、そのまま景信山方面へ縦走しても良しと、グループや個人の力量に合わせて柔軟な計画が立てられるのもポイントです。
【関東】檜洞丸-[ツツジの見頃:5月下旬〜6月上旬]
関東圏を代表する山域のひとつである丹沢。山域の中では高峰に位置する標高1,601mの檜洞丸は、登山口である西丹沢ビジターセンターからのルートであるツツジ新道と呼ばれる登山道に、満開のツツジが咲き誇ることで知られています。
ツツジは鮮やかな赤色で知られるトウゴクミツバツツジと、ドレスのような純白の花を咲かせるシロヤシオが咲き、登山道を鮮やかに彩ります。
ツツジ新道は急勾配の尾根で登り応えのある登山道としても名が知られています。この急な地形に咲き誇る花々は、目に見える美しさだけでなく、山の力強い生命力を感じさせてくれます。
見頃は5月下旬から6月上旬にかけて。ウェアは半袖か薄手の長袖のウェアを着て、薄手のソフトシェルやフリースがあると頂上でも冷えずに安心です。
ツツジ新道を越えた先にある檜洞丸山頂は木々に囲まれた静かな山頂です。眺望はそこまで見込めませんが、山深く趣ある山頂は山岳信仰を思わせる幽玄さを放ちながらも、心落ち着く空間です。
眺望は山頂から犬越路方面を少し歩くと視界が開け、西丹沢の山々が魅せる造形美を堪能できます。
【北陸】角田山-[花の見頃:3月下旬]
新潟県に位置する482mの角田山は、春にユキワリソウ・カタクリが見頃を迎え、登山道を彩ってくれる山として知られています。ヤマザクラやツツジのような大きく見応えのある花とは違う、登山道に咲く可愛らしく美しい花々を歩くのは、山が息づいているのを静かに感じさせる微笑ましさがあります。
花を見ながら登る際におすすめの灯台コースは海に面していて、花だけでなく海の眺望も文句なしです。
花の見頃は3月下旬頃です。気温はまだまだ寒いので、長袖のウェアにソフトシェルや化繊の軽量ダウンがあると行動時も温かいです。休憩時に合わせてダウンジャケットを持っておくと終始楽しくハイキングが楽しめます。
【関西】大和葛城山-[ツツジの見頃:5月上旬〜中旬]
同じ山とは思えないほど色鮮やかな姿になる春山。奈良県・大阪府に位置する大和葛城山は、南面にツツジの群落が咲き誇り、山が真っ赤に燃えるような赤色に染まることで有名な関西おすすめの春山です。
開花時期は5月上旬から中旬にかけて。半袖にウインドブレーカー、防寒用の軽量ソフトシェルを持っていけば、快適に真っ赤な大和葛城山を歩けます。
麓からはロープウェイが通っていて、登りは登山道を歩き、下山はロープウェイを利用するといった、ファミリーハイクではとてもありがたいご褒美登山を計画することができ、周回コースで下山も飽きのないルートが組めるなど、多彩な条件で登れるのも魅力です。
【関西】蓬莱山-[スイセンの見頃:5月上旬〜中旬]
滋賀県にある標高1,174mの蓬莱山は、登山からスキーゲレンデまで、琵琶湖周辺のアクティビティのスポットとして親しまれています。
春の5月上旬から中旬に見頃を迎えるスイセンは、蓬莱山の山肌を黄色く染め上げます。優しさを感じさせる淡い黄色の花をつけるスイセンが一面に広がる景色は、街とは異なる全くの別世界。ずっと静かに眺めていられるおとぎ話のような空間に浸れます。
視界が開けている蓬莱山は、花以外にも眺望も十分に楽しめるので、初めての登山から初心者の方からファミリーハイクまで幅広い方々におすすめです。
スイセンの見頃の時期は薄手の長袖にウインドブレーカーがあると良く、携行できる薄手のソフトシェルやフリースがあると安心です。
【信州】光城山-[桜の見頃:4月中旬〜下旬]
登山者から北アルプス登山の地として知られる安曇野にある標高912mの山で、北アルプスの峻険なイメージとは対にある、周回ルートで2時間ほどで登れる山です。
春に光城山をおすすめするのは、麓より続く1500本の桜。山頂に向かって直線で伸びていく桜を見たら登らずにはいられません。桜の中に飛び込めば、ピンク色に埋め尽くされた世界。夜にはライトアップもされます。
桜の見頃は4月中旬から下旬にかけて。服装は薄手の長袖を着て、防寒用に薄手のフリース、ソフトシェルなどを持っていけば光城山の山頂でも快適に過ごせます。
桜の名所に留まらず、頂上からは頂上からは北アルプスの展望が広がる最高のロケーション。春のお信州花見登山は光城山で決まりです。
【九州】雲仙岳-[花の見頃:5月中]
火山として知られる長崎県、島原半島に位置する雲仙岳は、ミヤマキリシマを始めとした花々が咲き誇る花の百名山に名を連ねています。
開花時期は場所ごとに差があり、池ノ原園地・宝原園地の群落は5月上旬から中旬頃、仁田峠一帯は5月中旬から下旬頃が見頃です。
服装は薄手の長袖、または半袖のウェアにウインドブレーカー、保温に携行性の高いソフトシェルを持っていくと快適です。
登山口の池ノ原園地から鮮やかなミヤマキリシマが迎えてくれ、山頂に向かうほどに変わる景色、火山ならではの圧巻の光景、一味違う春山の姿をその目に焼きつけられます。
生物を寄せ付けない火山一帯の姿、雲仙岳を取り囲むように咲く花々は、地球の自然をギュッと詰め込んだような不思議で魅力的な光景。
周回ルートで4時間30分の行程なので、朝から歩けば休憩や花々を堪能しながらのんびり歩けます。
花が咲き誇る春山で気持ち良く登山を楽しもう
全身で山の魅力を感じられる春山は、登山を始める、新しい登山を開拓するのに最適なシーズンです。山が迎え入れてくれるような花々の世界、山が生きている事を感じる眺望など、登山で得られる感動を沢山の仲間と共有できるのもポイントで、登山によって仲間との繋がるのも、春山ならではです。
春山でぜひ、気持ちの良い登山を楽しんでください。