登山装備の軽量化において、最も重量の割合を占めるのがテントやシェルターなどの宿泊装備です。パックウェイトを削ることは、登高時の疲労軽減だけでなく、足元の安定や行動時間の短縮など、山行全体の安全域を広げることにも直結します。
近年、多様な山岳テントが存在するなかで、3シーズン対応の自立式ドーム型シングルウォールシェルターとして設計されたのが山旅の「Air Float 1P」です。本体重量は600gを下回る589gという軽さを実現しながら、山岳用テントと同等の居住空間と耐水圧を備えています。
本記事では、このシェルターの特徴やスペック、開発に至った思想、生地コーティングの素材特性、他社製シングルシェルターやダブルウォールテントとの耐水圧・重量比較、安全に使い続けるための注意点、そして拡張性を支える専用オプションの詳細について包括的に解説します。
1. 僕がこのシングルウォールテントを作った理由

テント開発の背景には、長年にわたる山行の経験と、「なぜ既存のテントでは満足できなかったのか」という極めて現実的な問いがありました。
ダブルウォールではなく、シングルウォールを選ぶ3つの根拠
これまで数々のダブルウォールテントやシングルウォールテントを使ってきましたが、山行におけるストレスの少なさという点において、私はシングルウォールテントに大きな利点を感じています。その理由は主に3点あります。
設営の早さと軽さ

シングルウォールはフライシートをかける工程がなく、本体のスリーブにポールを通すだけで自立します。長時間の歩行で疲弊した体にとって、設営の手間が少なく、かつ背負う荷物が軽くなることは、精神的・体力的な負担を大きく軽減してくれます。悪天候下や急な日没時でも、素早く室内へ潜り込めるスピード感は大きな安心材料となります。
実際の山行における気象条件の検証

過去のテント泊や山小屋泊の記録を客観的に振り返ってみたところ、実際に自分が山へ入る日はその多くが晴れていました。悪天候を過度に想定した重厚な装備を常に担ぐよりも、天候を見極めた上でシングルウォールを選ぶ方が合理的であるという結論に至りました。現在では、ダブルウォールよりもシングルウォールばかりを携行しています。
結露への現実的な対処法

シングルウォールの懸念点として挙げられる結露ですが、吸水性の高いタオルを1枚携行し、適宜拭き取る運用を徹底すれば、実用上大きな支障なく過ごせます。これは私自身が何度も現場で経験して実感していることです。濡れを完全に防ぐために過剰な重量を背負うよりも、シンプルな拭き取りで対処する方が、山行全体の行動効率は格段に上がります。
すでに市場には、様々なブランドから洗練されたダブルウォールテントが多数展開されています。だからこそ、今あえて自分がダブルウォールを作る必要はなく、シングルウォールならではの利点を突き詰めるべきだと考えました。
軽さに振り切った製品の使いづらさを解消する
従来の超軽量シングルウォールテントやツェルトは、軽さを追求するあまり、居住環境や使い勝手が犠牲になっている場面がいくつか見受けられました。
ループの配置不足: 天井にループがないとランタンを吊るせず、衣類や細引きを渡しての乾燥もできません。
拡張性の低さ: 雨天時に登山靴や濡れたギアを置くスペース、あるいは簡単な湯沸かしを行うための前室を必要に応じて追加できる柔軟性が求められます。
設営方式の選定: 前泊の際や薄暗い早朝・夕暮れ時でも、スリーブ式であれば引っかかりが少なく、直感的に素早くテントを自立させることができます。
無駄を省いた構成: ペグやガイラインは、山域の地質や自身のパッキング思想に合わせて登山者自身が最適なものを選定したい部分です。そのため最初から付属させず、
グランドシートの扱いやすさ: 専用シートはサイズが合致するだけでなく、本体に取り付けたまま設営・撤収ができる簡便さを持たせることで、強風下でのシートのバタつきや位置合わせの手間をなくします。
居住空間のゆとり: 出入り口の開閉のスムーズさ、開放状態を留めておく機構、そしてテント内に腰を下ろした際に頭が天井に当たらない適度な室内高とフロアサイズの確保。
これらすべての条件を高い次元で満たすテントが市場に見当たらなかったため、「ないならば自分で作ろう」というシンプルな考えから開発を進めました。
2. 山旅「Air Float 1P」のスペックと設計
項目 | 仕様 |
製品名 | Air Float 1P |
構造 | 3シーズン対応 自立式ドーム型シングルウォールシェルター |
最小重量 | 589g(湿度により若干の変動あり) |
最大重量 | 602g(スタッフバッグ込み) |
本体寸法 | 長さ 210cm × 幅 90cm × 高さ 105cm |
耐水圧 | 2,000mm |
本体素材 | 10D リップストップナイロン(シングルシリコン加工) |
フロア素材 | 15D リップストップナイロン(シングルシリコン加工) |
メインポール | φ8.6mm 100%カーボン(2本同長) |
要所補強 | 210D Dyneemaリップストップ(スリーブエンド)、0.6mmハイパロン(ボトム四隅) |
製品内容 | テント本体、本体収納袋、カーボンポール×2、ポール収納袋、応急補修用パイプ |
別売オプション | 専用前室フライシート、専用グランドシート |
自立式として最も軽量なクラスとゆとりのある室内空間


Air Float 1Pは、自立式の1人用シェルターとして最も軽量なクラスとなる589gを実現しています。

同時に、室内高105cm・幅90cmを確保しており、標準的な幅50cmのスリーピングマットを敷いた場合でも、左右に荷物を置くスペースがそれぞれ20cmずつ生まれます。長辺方向も210cmあるため、足元や頭上にも荷物を整理して配置できます。壁面とシュラフやウェアとの接触を自然に防ぐことができるため、結露による濡れを物理的に抑える設計となっています。
道具を整理し乾燥させる多彩なループとストラップ設計
超軽量シェルターでありながら、生活空間としての利便性を損なわないよう、幕体内外のループとストラップの配置には細心の配慮が施されています。
天井5箇所のループ:天井部には計5箇所のループを設けています。ヘッデンや小型ランタンを好みの位置に吊り下げられるだけでなく、ループ間に細引き(ライン)やハンギングストラップを通すことで、濡れた靴下や手袋、行動着などを干す室内物干しラインとして機能します。


側面3箇所のループ:側面の壁面には3箇所のループが備え付けられています。ここには別売の「テントオーガナイザー 3メッシュポケット」をスマートに取り付けることができ、スマートフォンやメガネ、鍵、予備バッテリーなど、暗がりでも手元で見失いやすい小物を美しく整理・収納できます。


シェルター外側の多機能ストラップ(物干し・シュラフ固定・前室設営コード):本体外側には多目的に使える専用ストラップ(コード)が標準で備え付けられています。単体使用時にはガイラインとしての補強機能に加え、外側の物干しストラップとして濡れたウェアやタオルを掛けて風に当てることができます。


さらに、好天時の幕営地において、湿気を含んだシュラフをシェルター上部に載せて天日干しする際、このコードで上から押さえ込むことで、突風によるシュラフの滑落や飛散を確実に防止します。そして、この多機能ストラップを取り外すことで、そのまま別売の「前室フライシート」を取り付けるための接続コードとして機能します。
前室設営のために余計な専用パーツを追加で持ち歩く必要がなく、1本のストラップが「物干し」「シュラフの飛散防止」「前室の設営」という3つの役割を兼ねる、ULならではの無駄のない構造設計となっています。
3. テント素材のコーティングと防水処理の真実
山岳用テントを選ぶ際、生地のデニール数(厚み)だけでなく「どのような防水加工が施されているか」は、製品寿命や長期的な信頼性を左右する決定的な要素となります。
一般的なテントでPU(ポリウレタン)コーティングが選ばれる理由
市販されている多くの登山用テントには、PU(ポリウレタン)コーティングが採用されています。これには製造技術およびコスト面での明確な理由が存在します。
シームテープによる防水処理ができる(最重要):テントの縫製部(ミシン目)からの浸水を防ぐため、工場出荷時に熱圧着のシームテープを裏面から貼る必要があります。PUコーティング面にはシームテープが非常に強固に接着するため、大量生産のラインで容易かつ確実に完全防水テントを製造できます。
圧倒的なコストパフォーマンス:シリコン加工や非多孔質メンブレンなどに比べ、液体状のポリウレタンを生地に均一塗布して熱処理する工法は製造コストを大幅に抑えられます。そのため、高機能なテントを現実的な市場価格で供給することが可能になります。
生地の強度維持と風合いのバランス:極薄のナイロンやポリエステル生地にPUをコーティングすることで、適度なコシと引き裂き強度を持たせることができ、設営時の風によるバタつきを抑える特性が得られます。
代表的な防水加工・素材の違い
一方で、PUコーティングには湿気や水分によって化学結合が分解する「加水分解」が避けられず、年数の経過とともにベタつき、コーティングの剥離、特有の臭いが発生して寿命を迎えてしまう構造的な弱点があります。
加工・素材 | 加水分解 | シームテープ処理 | 特徴・デメリット |
PUコーティング | する | 可能(安価で完全防水にしやすい) | 最も普及しているが、湿気による経年劣化で寿命がある。 |
シリコン加工 (シルナイロン等) | しない | 不可能(接着テープがくっつかない) | 縫い目にシリコン系接着剤を手作業で塗る(シームシーリング)必要があり、量産や手間に課題がある。 |
超高分子量ポリエチレン (DCF等) | しない | 専用テープで可能 | 経年劣化に極めて強いが、素材費が非常に高価になる。 |
製造コスト度外視でシリコンコーティングを採用した理由
一般的なテントの多くがPUコーティングを採用し、年月の経過とともに加水分解による劣化を避けられないのに対し、Air Float 1Pでは製造コストを度外視してシリコンコーティング(シングルシリコン加工)を採用しています。繊維の内部までシリコンを浸透させることで、生地本来の引き裂き強度を高めつつ、加水分解によるベタつきや機能低下を起こさない耐久性を獲得しています。
シリコンコーティングを施した生地のデメリットとして、透湿性(水蒸気を外に逃がす性質)を持たない点が挙げられます。しかしAir Float 1Pでは、ベンチレーション(換気口)の位置、開口面積、空気の対流経路を綿密に設計することで、透湿性のあるPUコーティング生地を採用したテントと同等、あるいはそれ以上に結露の少なさを体感できる換気性能を実現しました。加水分解の心配がなく、長期間にわたって安心して使い続けられる仕様です。
4. シングルシェルターおよび主要ダブルウォールテントとの比較
「シングルウォールは耐水性や居住性に不安がある」という一般的なイメージがありますが、実際の数値を比較するとその性能が明確になります。
シングルシェルターの比較
国内で流通している主要な自立式シングルシェルター(ドーム型ツェルト含む)と比較すると、Air Float 1Pの軽さ、耐水圧の高さ、そして素材仕様の独自性が際立ちます。
モデル・メーカー | サイズ (間口×奥行×高さ) | 重量 | 前室 | 出入り口 | 耐水圧 | コーティング・加工 | 価格(税込) |
山旅 Air Float 1P | 210×90×105cm | 約589g(本体+ポール) 約602g(総重量) | オプションあり | 長辺 | 2,000mm | シリコンコーティング (シングルシリコン加工・加水分解なし) | 56,990円 |
プロモンテ UL-10 3S | 205×90×105cm | 約680g(本体+フライシート+ポール) 約705g(総重量) | あり(30cm) | 長辺 | 1,037mm | PU透湿コーティング | 59,400円 |
ヘリテイジ クロスオーバードーム (1.5人用) | 210×100×105cm | 約630g(本体+ポール) | なし | 短辺 | 1,230mm | 透湿ポリウレタンコーティング | 53,350円 |
ファイントラック カミナモノポール1 | 205×80×100cm | 約770g(本体+ポール+ガイライン2本+ペグ2本) | あり(50cm) | 長辺 | 1,000mm | PU透湿コーティング | 49,500円 |
モンベル U.L.ドームシェルター1 | 210×90×95cm | 約750g(本体+ポール) | なし | 長辺 | 1,500mm | ウレタン・コーティング | 52,800円 |
立式として最も軽量な本体重量: 既存モデルの多くが600g台半ばから700g台であるのに対し、Air Float 1Pは本体とポールを合わせて589gに抑えられており、自立式シェルターとして最も軽量な設計となっています。
非常に高い耐水圧: シングルシェルターの耐水圧は1,000mm〜1,500mm程度が主流ですが、Air Float 1Pは2,000mmの耐水圧を確保しており、まとまった降雨時にも高い信頼性を発揮します。
- 長辺出入口と十分な室内高: 出入りのしやすさや前室の使い勝手を考慮し、出入口は長辺側に配置。高さも105cmを確保しているため、室内での着替えやパッキングも圧迫感なく行えます。
主要山岳ダブルウォールテントとの耐水圧・コーティング比較
山岳用テントの基準となっている定番ダブルウォールテント、ならびに高強度モデルとフライシートの性能を比較します。
ブランド / モデル名 | 構造 | フライシート耐水圧 | コーティング・加工仕様 | 最小重量目安 |
山旅 Air Float 1P | シングル | 2,000mm | シリコンコーティング(シングルシリコン加工) | 約589g |
MSR(フリーライト1 / ハバNXなど) | ダブル | 1,200mm | PU / シリコン混合コーティング等 | 約740g〜1,300g |
NEMO(アトム1P / ホーネットオズモなど) | ダブル | 1,200〜1,500mm | PUコーティング / 撥水加工 | 約800g〜1,280g |
モンベル(ステラリッジ 1型) | ダブル | 1,500mm | ウレタン・コーティング | 約1,140g |
アライテント(エアライズ1) | ダブル | 1,500mm | シームテープ加工 / ポリウレタンコーティング | 約1,360g |
ヒルバーグ(ソウロ) | ダブル | 5,000mm | Kerlon 1200(両面シリコンコーティング) | 約2,000g(総重量約2,400g) |
多くの軽量ダブルウォールテントでは、軽さと防水性のバランスからフライシート耐水圧が1,200mm〜1,500mm程度に設定されています。これらと比較しても、Air Float 1Pの耐水圧2,000mmは非常に高く、極薄の10D生地でありながら雨に対する確かなプロテクション性能を備えていることがわかります。
一方、極地遠征や強風雪を前提としたヒルバーグのソウロなどは、耐水圧5,000mmを誇る両面シリコンコーティング素材(Kerlon 1200)を採用していますが、最小重量で約2,000gとなります。一般的な3シーズン山行や縦走において軽快な行動を目指す場合、589gという軽さで2,000mmの耐水圧と耐加水分解性を両立しているAir Float 1Pは、非常に合理的な選択肢となります。5. 使用上の注意点とポールの扱い方
道具のポテンシャルを最大限に活かし、山での重大なトラブルを未然に防ぐために、あらかじめ知っておくべき注意点があります。
【最重要】テントポール破損を防ぐ接続確認
山岳用テントの老舗であるプロモンテ(PUROMONTE)の開発担当者の方に話を伺った際、「山岳テントの故障理由で最も多いのは、ポールがしっかりと奥まで差し込まれていない状態で使用したことによる割れ(破損)」であると伺いました。
ポール同士の継ぎ目(フェルール部)に数ミリでも隙間が空いたまま曲げてしまうと、本来パイプ全体に分散されるはずの応力が接続の端部1点に集中します。これにより、アルミニウム合金であってもカーボンであっても、簡単に縦割れや破断が引き起こされます。
Air Float 1Pに採用されているφ8.6mmカーボンポールは、非常に軽量で高剛性という優れた特性を持ちますが、不完全な接続による局所的な負荷に対しては注意が必要です。
- 対策: 設営時、ポールスリーブに通す前、そしてスリーブエンドへ差し込んでテンションをかける前に、すべてのポールの継ぎ目が奥まで確実に連結されているかを目視と指先の感触で1節ずつ確認してください。これを行うだけで、ポールの破損リスクは大幅に低減します。
6. システムを完成させる専用オプションの詳細
Air Float 1Pは、山行のスタイルや気象条件に合わせて柔軟にシステムを組み替えられるよう、2つの専用オプションが用意されています。
① Air Float 1P専用 前室フライシート

天候悪化が予想される山行や、室内空間をより広く使いたい場合に活躍する着脱式オプションです。
最小重量: 112g(スタッフバッグ込み最大重量:129g)
素材・耐水圧: 10D シングルシリコーンナイロン / 耐水圧2,000mm
製品内容: 前室本体、ガイライン2本、自在金具2個、収納袋
【特徴と構造】
特別な工具や複雑な手順を必要とせず、短時間でセットアップが可能です。奥行きは50cmとなります。


本体外側に配備されている多機能ストラップを取り外し、そのストラップと前室シートを接続。左右の裾をテント四隅のペグに掛け、前方を1箇所ペグダウンするだけで、十分な奥行きを持った前室スペースが完成します。


雨天時の出入りで室内に雨が吹き込むのを防ぎ、濡れたレインウェアや泥のついた登山靴を置くスペースを確保できます。前室を使用しないときは物干しやシュラフ固定コードとして使っていたストラップを、天候悪化時にはそのまま前室の設営コードとして転用できるため、無駄な荷物を一切増やさずに拡張性を手に入れることができます。
② Air Float 1P専用 グランドシート

フロアの保護と設営の手間削減を両立させた超軽量シートです。
最小重量: 61g(スタッフバッグ込み最大重量:64g)
素材: 10D シングルシリコーンナイロン
製品内容: グランドシート本体、収納袋
【特徴と構造】
Air Float 1P本体のフロア(15デニール)にこの専用シート(10デニール)を重ねることで、合計25デニール相当の厚みとなり、尖った小石や木の根に対する耐摩耗性と引き裂き強度を向上させます。



最大の利点は、「本体に取り付けたまま設営および撤収ができる」点にあります。四隅を本体に連結したままスタッフサックへ収納できるため、風が強いテン場でもシートが飛ばされる心配がなく、位置合わせの手間もかかりません。フロア底部が地面の泥や土で汚れるのを防ぎ、撤収時のパッキング速度を飛躍的に高めます。
7. 先行予約販売について
山旅「Air Float 1P」ならびに専用前室、専用グランドシートは、現在以下の日程にて先行予約の受付を実施しています。
先行予約受付期間: 9月15日〜10月15日
先行予約特典: 通常価格より10%OFF
発送開始予定: 2027年4月1日より順次発送(受注生産)
無駄を排したミニマルなシェルター本体に、必要に応じたオプションを組み合わせることで、好天時のファストハイクから悪天候を見据えた縦走まで、自在に対応できます。道具の特性とポールの正しい取り扱いを理解した上で、身軽な足取りとともに、新たなテント泊の旅へ踏み出してみてください。

